データドリブンはOODAとPDCAのハイブリッド

さて、工程改善といえばPDCAサイクルが主流かと思います。
PDCAは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)、こういうサイクルですね。

 

一方、分析プラットホームAPやDN7ではOODAループ的な改善アプローチをとっています。
 

PDCAサイクル(左図)とOODAループ(右図)

 

OODAループ

OODAループは、迅速な意思決定と実行のための思考法=迅速性を最優先した状況適応法です。
アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐が朝鮮戦争の空中戦についての洞察をベースにして理論化したものです。戦闘機パイロットの意思決定が遅ければ、撃ち落されて終わりですね。ソビエト連邦のMiG-15に対して、加速・上昇・旋回性能のいずれも劣った米F-86が圧倒的なキルレシオ(撃墜・被撃墜の率)を残した事実に基づいて、何がその決定的な要因であったかを洞察・一般化したものです。

2度の大戦以降、兵器の能力が向上し、戦術の主役が人からより高性能な兵器に移行しつつあった中で、人間のもつ直観や能力を重視し、現場に主導権を与える、軍事戦略の転換点となりました。

 

OODAは、Observe(観察)→ Orient(方向付け・状況判断)→ Decide(意思決定)→ Act(行動)のループから構成されています。とはいえPDCAよりも柔軟に遷移することが前提で、そのニュアンスがサイクルとループという言葉にも表れていると考えらてよいかと思います。OODAのほうは矢印が多い(PDCAのような線形モデルの意思決定過程でなく非線形構造モデルが用いられ、そもそも順序通りに進むのは例外的パターンとされています)ですね。ActionとActの差もOODAの方がさくっとやるイメージにつながります。
元がドッグファイトから生まれていますので、変化の激しい状況下で素早く行動する、現在のVUCAの状況にはあっていますね。

 

※ VUCAとは、
予測が困難で対応が難しい状況や環境を表す。元はソ連崩壊時の状況を表現する言葉として生まれた、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉。現代は、ITやAIなどのテクノロジの進化やグローバル化・地政学的な問題や、温暖化やエネルギ問題、ウクライナ戦争などでVUCAな状態といわれています。

 

OODAとPDCA

OODAには大きな発想の転換があります。OODAは自らの計画に固執することなく、柔軟で臨機応変なリアルタイムな対応に重きが置かれています。その場で計画(Plan)を立てたり評価(Check)しているようでは撃ち落されるので、事前の計画よりリアルタイムな臨機応変さに重点を置き、始まりを観察や状況把握にし、判断もトップダウンでなく状況を一番分かっている現場の人中心にした、ということです。「走りながら考えて行動する」という感じでしょうか。PDCAはどちらかというと組織的な考え方ですが、OODAは人中心の考え方である、ともいえると思います。

とはいえ、OODAが優れているかというと暴走しやすいリスクはありますね。全く計画なしというのはさすがにいろいろ問題になるでしょう。
OODAは現場の裁量が任されます。なので、戦闘機でいうトップガンまでとは言いませんが、経験や能力が伴う人や現場ではないと回せないリスクはあります。一定水準以上の個々の技量レベルが求められるので、育っていないチームやメンバにOODAをやらせてもうまくいくとは限りません。

 

OODAがPDCAにとって代わるという論調がありますが、決してそうではないということが分かってくると思います。PDCAは組織で体系的に動くにはいい方法ですし、ショートサイクルで回せばOODAに近いアプローチも可能です。OODAとPDCAどちらが優れている、ということではなく、両方をうまく使い分けていくことがVUCAに対しても重要です。

 

三現主義とOODA
製造業でのOODA的な考え方としては、三現主義があげられると思います。

 

三現主義は、現場・現物・現実の3つの“現”を重視し、「机上ではなく、実際に現場で現物を観察して現実を認識した上で問題解決を図る」という考え方ですね。デスクの上で考えた理屈の上で正しいと思ったことは、実際の現場で起きていることと乖離がある、ということです。

 

現場や現物・現状を観察することが重要で、柔軟な思考や行動が求められるという点でも共通しています。実際は三現主義の意思決定の後にPDCAを回したりすることもありますが、基本はOODA的アプローチと考えることができます。

 

意外な共通点

PDCAは、1950年代に米デミング氏が日本の経営者や技術者に品質管理の考え方や統計的手法を伝えたことにより生まれました。デミング・サイクルという思想をベースに日本で体系化された品質改善サイクルで、1970年代の日本製品の躍進「Japan as Number One」の原動力の一つとなりました。

一方で、OODAは1950年の朝鮮戦争時のドッグファイトの戦略研究から生まれ、1990年の湾岸戦争では軍全体の軍事戦略に採用、今ではスポーツ戦略やビジネスの基本戦略に盛り込まれています。

 

では、データドリブンは?

データドリブンは、データ駆動型、すなわち「データを見て決める」という流れなのでOODA的アプローチだといえます。「データを見て、状況判断し、意思決定して、行動する」ですね。で、改善の度合いや規模にもよりますが、Act(行動)のところでPDCAに入ったりもします。ただし、この場合のPDCAは基本ショートサイクルにしましょう。三現主義でいうと、「現場・現物・現実」を「データで客観的かつ恣意性なく捉える」という感じですね。ちなみに、データドリブンとOODAループの組み合わせによって改善を行うことはアジャイル改善と言います。今後は製造業をはじめとしてアジャイル品質改善AQI(Agile Quality Improvement)やアジャイル工程改善API(Agile Process Improvement)という言葉が使われていく、と考えられます。

 

 

アジャイル改善について詳しくはこちら。


 

なお、迅速に対応するということでデータの観測は時間かけているようではダメです。手作業でグラフ化なんかまずいですね。またビッグデータも可視化する必要があるので、それにも対応したソフトウェアが必須になります。この考え方をツールファーストと呼びます。データドリブンは、をツールファーストアプローチで行きましょう。

 

 

結果的に、データドリブンはOODAとPDCAのハイブリッドループといえます。適材適所、で使い分けていきましょう。